こんにちは、Akiです。
通訳ガイドとして、日本を紹介するために、私が興味を持って読んだ本を紹介しています。
今回は、建築家・隈研吾氏に関する本をいくつか紹介します。隈研吾氏は海外でも人気が高く、通訳ガイドとしても知っておきたい建築家の一人です。
今や日本の建築界で一人勝ちともいえるほど、多くの建物を手がける隈研吾氏。
個人的には隈氏の建築はとても素晴らしいと思うものがある反面、時には疑問を感ずるような建物もあり、好きとも嫌いともいえない立場でした。
おそらく、その作品数の多さだけでなく、木・石・紙・プラスチックなどさまざまな材料を使い、時代や場所によって自在に変化するデザインなど、定まった形がないように見える作風のせいで、全体像が掴みにくい建築家という印象を持っていたのだと思います。
もちろん、私のような建築の門外漢には、建物を表面的に眺め、少しばかりのインタビュー記事を読んだだけでは、建築家の奥深い思考を理解できるはずもありません。
そのような隈研吾氏の建築を理解したくて、巷にあふれる書籍をいくつか読み、徐々に隈氏の考えやその背景にあるもの、その建築の材料・形・意匠などの意味するところが、少しずつわかってきたように思います。
「隈研吾建築図鑑」 宮沢洋 日経BP
元日経アーキテクチュア編集長で現在は画文化の宮沢洋氏が、隈研吾建築の中から国内で見ておくべき50件を抜粋し、独自の視点から分類。イラストを加えて図鑑のようにした本です。
あらためて隈氏の手がけた建物が多いこと、住宅や居酒屋から国立競技場までの幅広い種類の建物、そしてデザインの豊富さに驚かされます。
宮沢氏による精緻でカラフルなイラストとコメントが楽しく、既に見て知っている建物でも、新たな発見があります。写真も多彩で、見ていると実際の建物に行きたい気持ちが高まる本です。
建物の構造や竣工時期などのデータもあり、図鑑という名にふさわしい内容です。
私自身、隈氏の手がけた建物にそれほど強く惹かれているわけではなかったのですが、この本の「おわりに」に書かれた宮沢氏の文章を読み、同じような思いを感ずるとともに、本を通して隈氏の考えと建築への理解が深まり、見る目が変わってきたように思えました。
「建築家になりたい君へ(14歳の世渡り術)」 隈研吾 河出書房新社
隈研吾氏が、建築家に興味を持つ10代へのメッセージとして綴った本です。小学時代の生い立ちから、中学、高校、大学での経験を特に詳しく語った、自伝的な内容となっています。
タイトルから子供向けかと思い、読むのをためらっていましたが、大人でもまったく違和感なく、興味を持って読める本でした。
表現がやさしいせいか、隈氏の著作で時々遭遇する難解な箇所はなく、とてもわかりやすくて著者への好感度が上がります。
隈氏の生い立ちとそのエピソードを知るにつれ、氏の建築がなぜそのようなものなのか、ということが腑に落ちてくる場面が多くありました。
小学生の頃、父親と自宅の増改築を行うために、安価で格好のいい材料探しに夢中になっていたことや、高校時代のキリスト教的価値観の教育経験、アメリカ留学で、外国人との対話を通して気付いた日本文化の魅力など、さまざまな出来事が、隈氏の建築家としての活動に大きな影響を与えていることがわかる本です。
「建築家、走る(新潮文庫)」 隈研吾 新潮社
最初の出版は2013年で、他の本に比べると少し古い本です。当時、隈氏が手がけた「アオーレ長岡」や「歌舞伎座」が完成した時期とほぼ同じで、それらのプロジェクトについても語られています。
この本は、隈建築の中から、おそらく建築家としての転機となった、印象深い(苦労した)建物の話を中心に、20世紀の建築、主にモダニズム建築への批評とそれに替わる建築を追求していく、隈氏の思想・思考的な話を絡めながら、各章が展開していきます。
語られる氏の建築に対する思想・思考や仕事の流儀を読むと、場所や施主、そして人々との協調性を重視する姿勢が、今の時代にマッチし、それが多くの仕事の依頼につながっているのではないかとの思いに至ります。
番外編
「建築家、走る」は隈氏が語ったことを、ジャーナリストの清野由美氏がまとめた本です。
清野由美氏は隈研吾関連本の多くに携わり、「新・都市論TOKYO (集英社新書)」、「新・ムラ論TOKYO (集英社新書)」など、隈研吾氏との対談形式の本を手がけています。
その中でも「変われ! 東京 自由で、ゆるくて、閉じない都市 (集英社新書)」は、コロナの時代において、今後の隈研吾氏の活動のベースとなる思考・志向を伺い知ることができます。
清野由美氏との対話の中で、建築家としてスタートしたばかりの時期に、あるプロジェクトで数億円の借金を背負い、18年かけて返済した話が語られているのが衝撃的でした。